トルストイ著『イワン・イリイチの死 / クロイツェル・ソナタ 』
望月哲男訳 光文社文庫
トルストイ著『クロイツェル・ソナタ / 悪魔 』
原卓也訳 新潮文庫
長距離電車に乗りあわせた人々。話が、結婚観におよび、愛あってこその結婚だと意見の一致を見ようとしたとき、一人の男が反論し、自らの苦悩の物語を語りはじめます。
その男、公爵ボーズヌイシェフは、美しい妻を娶ったものの、結婚生活はすぐにいがみ合いへと暗転。挙句の果ては、妻の浮気に激情し・・・・・
このトルストイの名作『クロイツェル・ソナタ』では、男の独白を通じて、性愛の議論が展開されています。
それはトルストイ一流の倫理観に基づくものでもありましょうが、敢えて極論を展開したものと言って良いと思います。
極論であるだけに、読者は、さまざまに考えをめぐらせることができるということでしょう。
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公爵が妻の浮気を確信するにあたり、大きな役割を担うのがベートーヴェンの『クロイツェル・ソナタ』。
公爵は妻にヴァイオリニストを紹介し、ある夜会で妻とそのヴァイオリニストが競演をするのが、この曲です。右の映像は、Nikolai Madoyevさんというヴァイオリニストご自身のYouTube公式チャンネルの映像から。
自ら蒔いた種とは言え、演奏中、自分には見せたこともないほど活き活きとした姿を見せる妻を見て、公爵は嫉妬の思いに捕われます・・・・・・
夜会で聴いた曲の印象、そして、妻の様子を語る公爵の言葉が執着にとらわれた男の妄想のようでいて、また、真に迫るようでもあって、実に読み応えがあります。
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激情的な曲ですから、いかにもロマン派と思わせる演奏で選んでみますと・・・
躍動感のある演奏で評判をとったのがクレーメルとアルゲッチが組んだ録音。
ベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ第9『クロイツェル』&10番
ギドン・クレーメル(Vn)/マルタ・アルゲリッチ(Pf)
・国内盤
・輸入盤
長らく名盤とされてきたのがオイストラフとオボーリンのセット。こちらは、輸入の全集盤が安価なので、そちらでご紹介いたします。
Beethoven: The Sonatas for Piano & Violin [Box set]
ダヴィッド・オイストラフ(Vn)/レフ・オボーリン(Pf)
・輸入盤
ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタというと、この他に第5番の『春』も有名ですが、それこそ第1番からして溌剌とした名曲です。
上にご紹介のアルゲリッチとクレーメルのデュオも、全曲録音を出しております。ぜひ、弊サイトの検索ページでお探しください!(ページ右上の赤いバナーも入り口です。)
もう一つ往年の名盤で忘れ難いのは、フーバーマンとフリードマンの1930年の録音。表現主義といいますか、激しい名演。Arbiterというマイナーレーベルからこの名演の別テイクが出ています。本テイクと比べてもどっちがどうといいにくい切れ味の良いものです!
Concert and Recital Recrdings Kreutzer Sonata, 1944 Beethoven Vn Concertos etc
Bronislaw Huberman (Vn) / Ignaz Friedman (Pf) / Boris Roubakine(Pf) / Leon Barzin(Cond.)/The National Orchestral Association
・輸入盤
このCD、フーバーマンの1944年録音のべートーヴェンのヴァイオリン協奏曲もあって、こちらは年月によるものかおだやかな表現となっています。フーバーマンに興味のある方にはおすすめの一枚です。