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伝記『ディヌ・リパッティ 伝説のピアニスト − 夭逝の生涯と音楽』−優しくて強いということ

伝記『ディヌ・リパッティ 伝説のピアニスト夭逝の生涯と音楽』の商品写真

今回取り上げるのは、ルーマニア出身の夭折のピアニスト ディヌ・リパッティ(1917-1950)の伝記『ディヌ・リパッティ 伝説のピアニスト − 夭逝の生涯と音楽』。1917年のブカレストの生まれのリパッティ。病弱な体に苦しみ、戦争にも翻弄され、その才能を惜しまれつつ1950年に若干33歳で病没しました。しかし、数は少ないながらもその録音に遺された、優しく美しく、そして、芯の強い音楽は、没後半世紀以上経つ今でも新たなファンを生んでいます。

この名ピアニストの人生について、これまでレコードやCDの解説書にわずかな記述を見る他ありませんでした。本書は、そういった中での待望の一冊と言えるでしょう。著者は畠山陸雄さんという日本の方。

大変丁寧な記述で、リパッティの生い立ち、ピアニストとしての成長、様々な演奏会の様子が綴られます。ルーマニアでピアノを師事したジョラとムシチェスクの重要性が説かれ、また、作曲家としてのリパッティにも十二分に光が当てられています。ピアノ教師としての指導風景なども興味深い内容で、このように本書で初めて知ることになったリパッティの様々な側面は多岐に亘ります。

愛妻マドレーヌとの出会いや二人で築いた家庭に関する記述も過度にならないバランスの良さ。リパッティ夫妻の着の身着のままでのスイス亡命は有名な話ですが、ここに語られる詳細は大変感動的です。

師であったエネスコ、デュカ、ナディア・ブーランジェは勿論のこと、ハスキルバックハウスなど、様々な音楽家との交流にも多くの頁が割かれています。

著者の記述は、一貫して意見の押し付けをせずに、穏やかに進みます。リパッティほか登場人物の手紙や日記をふんだんに引用し、資料に語らせる客観性を常に保っていることも読者にとっては有り難いこと。こういった引用から、リパッティの声が聴くことができたのは大変嬉しいことでした。

写真も数多く織り込まれて、その中には個人的なスナップショットもあって、読み手の想像を助けます。

巻末の20頁は各種のデータに当てられて居りますが、録音一覧、作曲作品一覧、演奏会レパートリー、参考文献、そして年表と充実した内容。後学にも大変便利です。

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上述の通り、感心を引いた事柄は多くあって話すと切りがないのですが、リパッティが書き記した演奏会評について特別に取り上げたく思います。それは本書のそこかしこに出て来るものですが、同僚や先輩音楽家を取り上げての価値判断、その率直な筆致にすっかり感服致しました。20世紀前半の名演奏家についての案内として、リパッティの言葉を便りにいろいろ聴き進めるのも面白いことと思います。

ドイツのウィルヘルム・ケンプについて

ルービンシュタインほど派手ではないが、懐が深く極めて感受性の高い演奏をしていた。

この時は、ケンプの弾くバッハ、ブラームスの第1番、ベートーヴェンの第5番、モーツァルト第20番の協奏曲を聴いたそうです。今は余り聴かれませんが、ケンプのブラームスやモーツァルトの協奏曲など是非とお薦めしたいもの。

ワルター・ギーゼキングについては、

ピアノという楽器を完璧なまでに熟知している、なんという素晴らしいピアニストであることか!(中略)ベートーヴェンのOp.111は、すさまじいアタックで我々を驚かしたが、アリオーソと変奏がとても美しかった。一方ラヴェルには魅了された。極めてしなやかな弾き方のために、ピアニッシモに意外な効果を出していた。
スカルラッティのソナタでは、速いパッセージを正確にしかも均等に弾いていた。バッハの組曲はメロディーをくっきり浮かび上がらせていたのに感動した。

ギーゼキングの正規盤はEMIから発売されており、モーツァルト、ドビュッシ−、ラヴェルといった比較的穏やかな曲が多いのですが、昨今ラジオ放送用音源などが手に入りやすくなったので、「すさまじいアタック」をするギーゼキングの演奏を確認しやすくなっています。

ピアニストばかりでなく、例えばブダペスト弦楽四重奏団について、

統一感のとれた躍動感、各奏者が持つ最高度の音楽的知性や技術などが、この楽団の世界中での人気を支えている理由である。・・・・・・彼らは今まで聴いたことのない様な“ピアニッシモ”を聴かせてくれた。また、音楽性を犠牲にして技術をひからかそうとする手合いとはほど遠い、本物の演奏家の見本を示してくれた。

室内楽や交響曲の公演など、ピアノ以外の音楽にも積極的に触れていたことは随所に伺えます。再びピアニストで、 エドウィン・フィッシャーについて、

どの演奏会も深い内省の雰囲気の中で行われている。シューベルトの《即興曲》のなんと素晴らしかったことか。フィッシャーはこの曲に繊細さとメランコリーの中に強い気持ちが含まれていることを知っているかのように、見事に演奏している。

フィッシャー・ファンの私にとっても我が意を得たり!という記述。しかし、この一文は、そのままリパッティ自身のシューベルト《即興曲》の名演にも当てはまる言葉と思います。

ここでは賞賛の言葉だけ抜き書きましたが、実のところ、リパッティは疑問点にも具体的かつ率直に触れています。

例えば、すぐ上のフィッシャーについても、バッハ、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトには最大級の賛辞を寄せながら、ショパンの演奏についてはパリで世話になったアルフレッド・コルトーのそれと対比して、「なぜあんなにも生硬なのか」と。

ホロヴィッツとルービンシュタインについての疑問符付きの考察は非常に鋭いものと感じました。こういった疑問の言葉からもリパッティの価値観が伺えます。詳細は本書でぜひお確かめ下さい。

リパッティは一時期、週間新聞の演奏会評を受け持ったこともあった由。出来得るならば、すべて読みたい!と思ってしまいます。著者の畠山氏が、リパッティ音楽論集とでもいった訳書を刊行してくださればこの上ないことなのですが・・・

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この機会にリパッティの録音について併せてご紹介致しましょう!リパッティの正規盤はEMIから発売され、わずかな数しかございませんが、2008年それをまとめた7枚組のセットが安価に発売されました。

Icon: Dinu Lipatti (7枚組)の商品写真Icon: Dinu Lipatti [Box set]
EMIのリパッティ録音全集
輸入盤(7pc)


時に物憂げに、時に軽やかに変化するショパンのワルツ、ころころと転がる音がだんだんと悲しさを帯びるシューベルトの即興曲の他、バッハ、スカルラッティ、モーツァルトの独奏曲、シューマンやバルトークの協奏曲など、詩情あふれる名演が収められています。古い録音で、聞き苦しいと感じる方もあるかも知れませんが、ノイズは頭の中でわきにおしやって、この類い希な音を楽しんで頂ければと思います。

「いきなりセットを手にするのは気が引ける・・・」という方には、国内盤では同じ録音が分売されておりますので、そこからの一枚、ブザンソンの最後のリサイタルは如何でしょうか?これは病を押しての最後のコンサートのライブ録音。コンサート中にはリパッティが中座する事態も起きました。

ディヌ・リパッティ(P) ブザンソン音楽祭における最後のリサイタルの商品写真ディヌ・リパッティ:ブザンソン音楽祭における最後のリサイタル
国内盤


曲目は、バッハのパルティータ第1番、モーツァルトのソナタ第8番 K.310、シューベルトの即興曲、そしてショパンのワルツ。内容のこもった音楽でありながら、あくまで自然で奇を衒った演出など微塵もありません。

リパッティの演奏を聴くと、知性と感情の幸せな結合を感じます。

最後にリパッティが教師として指導した言葉から。

家を建てる時、まずコンクリートで土台を作るように、原典を入念に読み、その上で必要な、例えば精神の高揚、自主性、自由な多様な感性といったものを付け加えるべきです。
名手といわれる演奏者の大半はしかし、上に挙げたこの二つの基本をうまく一つにして演奏してはいないようです。確かに楽譜通りに正確には弾いていますが、自分らしさが出ていません(このような演奏を聴いた人は、ときにはテクニックの素晴らしさに驚くことはあっても、決して幸せな気分になれません)。あるいは作曲者の指示を見逃して勝手に解釈し、作曲者の本当の意図を軽視してしまっています。そればかりか演奏に際し、精神の高揚、自主性や多用な感情といったものを間違えて表現してしまい、作品を取り返しのつかないほどにねじ曲げてしまっています。つまりこのような演奏は、そもそもの出発点から間違っているのです。

リパッティがこれをどう実践したか・・・それは素晴らしい録音にぜひ!

p.s.:米国のアマゾンで試聴ができました。例えば、4曲目のOp.69-1のワルツなど如何でしょう?






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