ちょっと久しぶりになりましたが、アニメーションからご紹介です!GAINAXとProduction I.G共同製作の『フリクリ FLCL』。監督はこれが初の監督作品となった鶴巻和哉、キャラクターデザインは貞本義行のOVA作品。製作年は1999年から2000年と思われますが、少々不明なのでOVAの最終巻が出た2001年を取りました。
『フリクリ』は6話からなるSF(?)作品で、日本よりも海外での評価が高いそうです。実際、私の知人の米国人も「このDVDを持ってるよ」と自慢気に語っておりました。
演出が実に独特で、海外の方々の波長に合うのでしょうか?
ちなみに海外でのタイトルは Fooly Cooly。これはこれで中身とぴったりなタイトルと思います。
SFといっても現代的な日常感溢れる作品で・・・とこの作品を説明するのは、なかなか難しくて、巨大なアイロンが丘の上に威圧的に構えるどこにでもありそうな日本の町。これだけでも???となります。やや無気力な小学生ナオ太とナオ太にまとわり付く高校生マミ美の前に、ベースを抱える左利きの女がVespaのスクーターを飛ばして現れナオ太を殴打!!彼女はなにかの目的を秘めてナオ太の家に居候になるのですが・・・
簡単に言ってしまえば、ナオ太ら主要登場人物の成長物語ですが、実際見終わった時には、「いったい対象年齢何歳で作ったのだろう?」と疑問が残りました。大人には子供向けで、子供には大人向け?そんな感想も持っています。しかし、演出のテンポが良く、構図にせよ、セリフにせよ、ストーリーにせよ、破綻も恐れないさまざまなアイディアに溢れていて、これはこれで実によく出来た作品と思います。
破綻と言えば、「ここまでやっていいの!?」という無鉄砲な破綻ぶりですが、全体としてやっぱり一つの作品にまとまっているのは制作者の力量あってこそでしょう。
海外版のDVDに収録されている鶴巻監督へのインタビューがネットに出ていましたが、大変詳細な内容で面白いものでした。性的隠喩は鶴巻監督の発案ではないと聞いて、「やはり」と思ったり*1、そもそも作品を作るに当たって、細かい設定までクリアにせずに始めたとあって、「そういうものなんだ」と関心したり。ぜひ本編を見た後にご覧に成ることをお薦め致します。
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この映画で使われたクラシック音楽は、カバレフスキーの管弦楽組曲《道化師》 Op.26(1939年作曲)の第二曲ギャロップ。運動会のあの曲!と言った方が良いでしょうか?
第三話『マルラバ』での蜘蛛型怪獣との一騒動に出てきますが、鶴巻監督へのインタビューによれば、作画監督の平松禎史氏がクラシック音楽好きで、「合う曲ですよ」と薦められたそうです。
運動会で流されるのを聞いたことしか・・・という方も多いのではないでしょうか?
心の琴線に触れるような何かがあるとか、神韻に達するような響きがどうのという音楽ではないと思いますが、少々童心にかえって楽しまれてはいかがでしょう!
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さて、カバレフスキー《道化師》の名盤となると意外に録音が少ないのですが、まずはキリル・コンドラシン指揮の1958年の録音。カバレフスキー《道化師》の他に、ハチャトゥリアン 組曲《仮面舞踏会》、チャイコフスキー《イタリア奇想曲》、リムスキー=コルサコフ《スペイン奇想曲》を収録。カバレフスキー以外も抜粋でなく全曲というのも良い点です。
この1958年はアメリカのピアニスト ヴァン・クライバーンが第1回チャイコフスキー国際コンクールで優勝した年。その関係で、アメリカに訪れたコンドラシンが録音した一枚(よって、クライバーン演奏・コンドラシン指揮のチャイコフスキー ピアノ協奏曲の録音もこの年のものです)。
道化師~ロシア管弦楽名演集
キリル・コンドラシン指揮 / RCAビクター交響楽団
オスカー・シュムスキー(Vn)
・国内盤
・輸入盤
このCDの聞き所は、独奏ヴァイオリンにオスカー・シュムスキーが参加し、その妙技を楽しめることでもあります。ロシア系移民の子として1917年にフィラデルフィアに生まれたシュムスキー。その師はアメリカに亡命した最晩年のレオポルド・アウアー。アウアーの死後はエフレム・ジンバリストに師事。
指揮者ストコフスキー、ヴィオラ奏者のプリムローズ(シュムスキーはギンゴールドらとプリムローズ弦楽四重奏団に参加)、ヴァイオリニスト オイストラフ他、シュムスキーへの賛嘆は多くの人が口にしています。グレン・グールドとの共演を通じて,名前をご存知の方もいらっしゃることでしょう。
カバレフスキーから離れますが、シュムスキーにご興味を持たれたら・・・アルトゥール・バルサムのピアノで録音したモーツァルトのソナタがいま入手困難なのがなんとも残念ですが、他にも沢山録音はあります。ちょっと変わり種でイザイのヴァイオリンのための6つのソナタなど如何でしょう?
Eugène Ysaÿe: 6 Sonatas for Solo Violin
Oscar Shumsky(Vn)
・輸入盤
カバレフスキーに戻りましょう。
同じくちょっと古めの録音ですが、エフレム・クルツ指揮のArtist Profile(2枚組 写真は米国Amazonから借りました。リンク先は日本のAmazonです。)が、さながらロシア管弦楽曲集といったもの。こちらもきびきびとしたリズム、勘所をとらえた甘い節回しなど楽しいアルバムです。
カバレフスキーの《道化師》全曲は勿論、リムスキー=コルサコフの組曲版《金鶏》、ハチャトゥリアン 組曲《仮面舞踏会》プロコフィエフとショスタコーヴィチのそれぞれの交響曲第一番の他、アナトール・リャドフAnatol Konstantinovich Lyadov の曲も《キキモラ》他多数収録。
Efrem Kurtz Artist Profile
Efrem Kurtz
(Cond.)/London Philharmonia Orchestra, Royal Philharmonic Orchestra
・輸入盤(2pc)
折角の機会ですからカバレフスキーの他の曲も一つだけ紹介致しますと、ダヴィッド・オイストラフがヴァイオリン協奏曲Op.28の録音を残しています。この指揮は作曲者カバレフスキー本人。CDには1950年代初頭の録音とのみありますが、作曲は1948年ですから、生まれてすぐの録音となります。
David Oistrakh Plays Dvorák, Glazounov, Kabalevsky
David Oistrakh(Vn), Kiril Kondrashin(Cond.), Dmitry Kabalevsky(Cond.), USSR State Orchestra
・輸入盤
ロシア風というかカバレフスキー風というか、いかにもリズミカルにはじまる第一楽章から、甘いメロディの第二楽章とつながって、、、と典型的なヴァイオリン協奏曲ですが、解説書にはウクライナ風の旋律が多様されてとありました。浅学故、ウクライナの旋律といってもピンと来ませんが、オイストラフの至芸と共にお楽しみください!
併収はドヴォルジャークとグラズノフの協奏曲。こちらの指揮はキリル・コンドラシンです。
ではまた次回!
*1 鶴巻和哉監督の傑作として、『トップをねらえ2!』も大変お薦めです。キャラクターデザインは貞本義行。クラシック音楽を使っていないので、このコーナーでご紹介できないのですが、ポップな絵柄で、おふざけも多々ありますが、本質は二人のヒロインの友情を細やかな演出で描いた良質の作品と思います。